プロジェクトについて

研究代表者の挨拶

筑波大学 教授 裏出良博

私は1997年に初めて、スペースシャトル「アトランティス号」を使った宇宙での蛋白質結晶化実験に参加しました。この宇宙実験は、当時、稼動していたロシアの宇宙実験室「ミール」の空調機を補修するための緊急フライトを利用して、突然にチャンスが訪れたものでした。

これを契機として、2度目の宇宙実験が企画され、2003年1月の「コロンビア号」を使った科学実験専用の打ち上げに参加することになりました。しかし、この「コロンビア号」は、宇宙実験を無事終了して帰還の途中、空中分解事故を起こし、宇宙実験を遂行した搭乗員全員が殉職するという悲惨な最期をとげました。彼らの遺志を引継ぐ形で、その後はロシアの宇宙輸送船「プログレス」と「ソユーズ」、国際宇宙ステーションを利用した実験に切り替え、現在までに10数回の宇宙実験を継続しています。

私が研究対象としている蛋白質は造血器型プロスタグランジンD合成酵素という酵素です。この酵素は様々な炎症に関与し、現在も治療法の無い難病であるデュシェンヌ型筋ジストロフィーという病気の筋萎縮の進行にも関わっています。そして、宇宙実験を利用して、この酵素の働きを止める阻害剤を開発し、その臨床試験が2014年9月から日本で始まりました。そのニュースは世界に発信され、筋ジス患者の家族に大きな希望を与えました。この研究成果は「宇宙実験の人類に対する大きな貢献」として世界から注目され、宇宙実験を支援している米国Boeing社がビデオニュースを作製してホームページで紹介し、YouTubeに公開しています。また、アメリカ航空宇宙局(NASA)も、この研究成果をビデオニュースで世界に発信しています。この研究成果は宇宙実験との出会いが無ければ成し得なかったものです。(続きを読む

本事業のコンセプト

東京大学・農学生命科学特任研究員 東京大学経済学博士 王淑珍

「高品質蛋白質結晶化技術の宇宙科学研究拠点形成」事業

本事業は平成25年9月12日に公募が開始され、10月10日に締切りでした。当時、筑波大学の主幹リサーチ・アドミニストレーターをしていた私は、研究代表者の裏出先生に本事業への応募を勧めました。先生は極めて多忙な中で、「是非、このような研究拠点を実現したい」という強い思いを抱かれ、構成メンバーの先生方に呼びかけました。先生方から送っていただいた技術的な研究内容資料に、経済学の概念を導入して、公募の趣旨との乖離を修正しました。そして、平成26年度「宇宙科学研究拠点形成プログラム」への応募29件中4件採択という厳しい審査の結果、採択されました。計画書作成段階から参画した経緯もあり、本事業の事業連絡者に指名され、東京大学に移籍後も当該業務を担当させていただきます。申請から採択、実際の運営まで、先生方の強力なご支援のお陰で、順調かつ円滑に当初の理念通りに本事業は進んでいます。文部科学省の由本様、葛谷様、小林様、構成メンバーの先生方、裏出先生、五十嵐先生の研究室の方々に、この場を借りてお礼申し上げます。

国際宇宙ステーションの微小重力環境を利用して開発した高品質蛋白質結晶化技術」は、海外から高く評価されている日本独自の技術です。国内では年間1、2回の宇宙実験機会がありますが、実験技術の伝承や人材育成の環境整備が大きく遅れています。そこで、本事業は、これまで蓄積してきた宇宙高品質蛋白質結晶化技術を体系的に整理したうえで、①若手研究者に伝承し、②他分野の萌芽研究を創出する環境を整備することを目的とします。そのために、以下の活動を行います。

1)シニア研究者を中心として「技術プラットフォーム」を形成し、若手研究者に伝承する。

2)国内外から専門家を招聘して若手研究者向けの講習会・研究会を開催し、多くの研究者を育成する。

3)国際的に著名な高品質蛋白質結晶化の専門家を招聘して国際シンポジウムを開催し、構成メンバーが培ってきた国際ネットワークを次世代の若手研究者に伝承する。

上記の活動を通じて「日本型の宇宙科学実験モデル」を形成し、他の萌芽分野に拡大して新産業の創出を促進します。これらのコンセプトに基き、平成26年度「キックオフ会議」では、シニアと若手の2部構成を組み、さらに、需要サイドの視点から企業の発表も行いました。こうして、シニアと若手、供給と需要を一体化した宇宙高品質蛋白質結晶コミュニティーを当初から形成しました。

平成27年度の第1回国際シンポジウムでは、アメリカ、スウェーデン、ロシア、ドイツの宇宙高品質蛋白質結晶専門家を招聘し、国際ネットワークを若手研究者に継承して、コミュニティーの国際化を図りました。今後は、このコミュニティーの成長と拡大、若手研究者の育成、国際ネットワークの深化を同時に展開して、真の宇宙科学研究拠点の形成を目指します。

他分野の萌芽の研究創出 高品質蛋白室結晶化技術コミュニティ形成 宇宙科学実験モデルの形成

構成メンバー研究内容紹介

本事業の参加機関は、過去に10回以上、国際宇宙ステーションを利用した微小重力環境での高品質蛋白質結晶化実験に参加した宇宙実験のベテランです。その研究は、難病である筋ジストロフィー治療薬の開発(筑波大学・裏出)、セルロース分解に基くバイオマス利用(東京大学・五十嵐)、インフルエンザ・パンデミックに備える抗ウイルス薬開発(神奈川科学アカデミー・朴)など、地上にくらす我々に大きな恩恵をもたらす可能性を秘めています。

氏名 所属機関 研究内容
研究代表者 裏出良博 筑波大学 創薬標的蛋白質阻害剤複合体の高品質結晶化と高分解能結晶構造解析
構成メンバー 中川敦史 大阪大学 膜タンパク質や巨大分子複合体の高品質結晶生成技術と超高分解能の構造データ解析技術の確立
構成メンバー 五十嵐圭日子 東京大学 バイオマス関連多糖加水分解酵素の結晶構造解析
構成メンバー 朴三用 神奈川科学技術アカデミー インフルエンザRNAポリメラーゼの結晶構造解析
構成メンバー 田仲 広明 (株)コンフォーカルサイエンス 宇宙実験効果メカニズムの検討大型結晶の育成方法の開発